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Channel: 落合学(落合道人 Ochiai-Dojin)
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「高次の存在」に進化した貞子さん。

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日本心霊科学協会1.JPG
 このサイトをはじめる前から、散歩をしていると下落合駅より歩いて4分ほどの上落合に、「日本心霊科学協会」という団体があるのが気になっていた。同協会は、日本政府ないしは東京都が認可した、いわばおおやけの公益財団法人であり、設立は敗戦直後の1946年(昭和21)だ。1990年代の末ごろ、落合地域の隣りにある井上哲学堂Click!に興味をもち、井上円了Click!の著作などを読んでいたせいか、あるいは深夜ドラマの「TRICK」を観ていたせいで、よけいに気になったのかもしれない。
 同協会の出発点は、英文学研究家で翻訳家の浅野和三郎が、1923年(大正12)に母校近くの本郷に「心霊科学研究会」を創立したのにはじまる。東京帝大で教授だった福来友吉Click!とともに、1928年(昭和3)にロンドンで開催された第3回ISF(International Spiritualist Federation)国際会議に参加し、同会議では登壇して研究論文を発表している。福来友吉は、御船千鶴子Click!長尾郁子Click!、高橋貞子らとともに公開実験を行い、超能力者Click!の存在を証明しようとした学者だ。拙サイトでも、ずいぶん以前に細川邸へとやってきた御船千鶴子のエピソードをご紹介している。
 ロンドンからもどった浅野和三郎は、1929年(昭和4)に心霊科学研究会を「東京心霊科学協会」へと改組し、1936年(昭和11)に死去するまで活動をつづけた。つまり、日本心霊科学協会は原点となった心霊科学研究会から数えると、2020年で創立97周年、戦後の法人化から数えても創立74周年と、公益財団法人の中でもかなり古株に属する団体ということになる。同協会の機関誌「心霊研究」は、スピリチュアリズムを研究する「学術誌」ないしは「紀要」という体裁だが、1947年(昭和22)から毎月発刊されており、その中の1冊をネットで見かけたので手に入れて読んでみた。
 購入したのは、2007年(平成19)に発行された「心霊研究」5月号で、表紙に「ITC~電子機器が開く他界への扉(9)」という記事を見つけたからだ。わたしがITCと聞けば、仕事がらIT Coordinatorをイメージするので、ITコーディネーターがどうして「他界への扉」を開けるのか? それともICT(Information Communication Technology)の誤植?……と興味をおぼえたからだ。ところが、ITCとはデジタル情報通信用語とは関係ない(いや、むしろ関係ある?)、Instrumental Transcommunicationの略称だったのだ。オカルトブームのころ、いまだアナログ通信が主流だった時代の用語でいえば「霊界ラジオ」、いま風にいえば「霊界通信デバイス」ということになるだろうか。
 ITCは、米国の研究者たちが物理的に設計した「霊界」と通信ができる(とされる)専用装置だが、もちろん当時の通信手段はアナログだった。それは、あまりにイカサマ臭い霊媒師や、金儲けのためにサギを働くエセ超能力者、霊媒師と同じようなことをして注目を集めるマジシャン、あるいは「霊界」から伝わった情報へ主観的な脚色をしてしまう降霊術師などが語る「死者の声」を排除するため、霊感のない人間でも「霊界」とダイレクトに通信ができる情報機器を開発しよう……というのが、当初の研究者たちの開発動機だったらしい。また、同様の動きは「霊界」でも起きており、地上の人々と自在に通信ができるような装置を開発していて、その開発プロジェクトチームに加わっているのは、死去する以前に通信技術分野の仕事をしていた技師や科学者たちなのだそうだ。
 「霊界」にいる「スエジェン・サルター博士」の証言をメインに参照しつつ、世界のさまざまな事例を紹介する前述の「心霊研究」に収録された、冨山詩曜・編著『ITC~電子機器が開く他界への扉(9)』から少し引用してみよう。
  
 ホリスターの方も、ハーシュ・フィッシュバッハ夫妻に会いたいと強く希望していて、一九九四年の一月、彼は三人の会合を提案する手紙を書いた。すると、その手紙を受け取ってから一週間もたたないうちに、マギーのもとに霊界の友人であり信頼すべき助言者でもあるタイムストリームのスエジェン・サルターからのファックスが届いたのだ。
  
 同論文は、心して覚悟を決めてから読まないと、とたんに脳みそがクラクラとめまいだけを残していくので要注意なのだが、この時点で「霊界」と地上とはFAX回線、つまりアナログの音声ネットワークによる通信手順でつながっていたことになる。換言すれば、「霊界」でも同様の通信技術の開発に成功していたとみられ、目標とする地上の人物宅に設置されていたFAXへ、無事メッセージを送信できた……ということになるのだろう。
浅野和三郎.jpg 心霊研究200705.jpg
浅野和三郎「心霊から観たる世界の動き」1936(柳香書院).jpg 浅野和三郎「欧米心霊行脚録」1938(心霊科学研究会出版部).jpg
 ここで留意したいのは、死者が生前の職業を「霊界」でも引きつづき踏襲できるという点だろうか。技術者は、そのまま機器開発の仕事をし、科学者は地上と同じような研究をつづけることができるわけだ。でも、そう考えると「霊界」では大量の失業者が生まれているのを心配するのは、わたしだけではないだろう。地上で仕事をしていた葬儀関係者は、まちがいなく全員が失業だし、病気や事故に対応していた医療関係者や保険業従事者、墓のある寺院の坊主Click!、おカネに関係する仕事をしていたすべての金融・証券業の関係者などは、新たな職を求めて「霊界」ハローワークへ通うことになる。
 ええと、ちょっと脱線しそうなので、話をITC(霊界ラジオ)にもどそう。ITCの課題は、地上のICT(デジタル情報通信技術)の進化が速すぎて、「霊界」にいる亡くなった前世代にあたる技術者や研究者たちのスキルでは追いつかず、ついていけないのではないか?……というような心配はまったく無用で、技術がどのように進歩をとげようが、霊感の強い人物あるいはニセモノではない霊媒師が機器の近くに存在すれば、「霊界」の「高次の存在」ならどのような電子機器(汎用的な機器)を使ってでも通信ができるとしている。
 じゃあ、ITC専用機なんてそもそも不要じゃん!……ということにもなるが、「霊界」でも地上と同様の仕事をつづけている人たち、つまり「低次の存在」(「低級霊」といういい方をする人もいるようで、「霊界」にもどうやら社会科学的な階級観を適用する余地がありそうなのだ)には、どうしても必要だということらしい。同誌から、再び引用してみよう。
  
 彼ら(高次の存在)の意思伝達には人間が理解できないほどたくさんの文字や記号、物理的・数学的な公式が使われる。実際、サルターは「高次の存在たちの知識は、一人の人間の心よりも電子機器を使った方がより正確に受信できる」と述べている。/サルターはまた、高次の存在について驚くべきことはその誠実さである、と言っている。/「彼らはお互いに対して何の隠し事も持ちません。コンピューターの『ネットワーク』のように相互に対話をし、コンピューター・バンクのような速さで情報の交換を行います。もしあなたが一人の高次存在に話しかければ、その他の全ての高次存在が『同時に』その会話の内容を知るのです。(後略)」(カッコ内引用者註)
  
 「コンピューター・バンク」は、コンピュータ・バンキングのことだと思うが、ネット・バンキングの処理スピードがことさら「速い」と感じられていた時代の、「霊界」にいる「サルター博士」の感想だろうか。「高次の存在」の「霊」は、あたかもハイスペック・ハイパフォーマンスのサーバが数千台つながった、ときにスパコンよりも速いHPCクラスタのように超高速の並列処理が可能で、かつ汎用的な通信手段をもっていることになる。
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 さて、ITCにからむ論文を読んでいて気がつく事実は、「霊界」からの通信はアナログ/デジタルのちがいは関係なく(あらかじめD/Aコンバータ機能を装備しているようだ)、また、あらゆる通信規格や通信手順、通信速度、周波数帯域やその制御機能をいっさい無視して成立しているということだ。換言すれば、アナログ音声ネットワーク時代のFAX回線から、デジタル携帯端末の4G/5G(ローカル5G含む)のちがい、EthernetやVPNなどのIEEE802.XX規格やプロトコル、IPアドレスやMACアドレスの有無、1G~100Gbpsと通信速度のちがい、無線LANによるAP(WiFi・WiMAX)の周波数帯とその制御など、まったく考えなくてもいいのがITC(霊界ラジオ)ということになる。じゃあ、「霊界」の技術者たちは、いったいなにを延々と研究開発する必要があるんだよ?……ということになるが、あまり深く考えると頭痛がするのでやめておきたい。
 ここで、福来友吉の名が出ているので、関連深い『リング』(1998年/東宝)の山村貞子さんを例に取りあげてみたい。1990年代の貞子さんは、アナログビデオテープに呪いを念写して、アナログ仕様のブラウン管TVに映像を投影し、犠牲者が呪いのビデオを視聴後はアナログ電話回線を使って情報を伝達(交換局はデジタルPBXかVoIPサーバ?)していた。ところが、21世紀になると貞子さんはインターネットや専用線の別なく、多種多様な無線通信規格を含め、PCだろうがスマホ(PDA)だろうが、デジタル放送のTVだろうがウェアラブルデバイスだろうが、ありとあらゆるエンドポイントの端末を伝って呪いをとどけるマルチプロトコル対応化と、大容量データの輻輳制御に短期間で成功している。つまり、地上で呪いをふりまく「低級霊」のはずだった貞子さんが、いつのまにか「霊界」でも「高次の存在」と同様のコミュニケーション処理能力を備えるにいたったのだ。
 「霊界」にいる「高次の存在」をスカウトすることはできないが、地上にとどまっている貞子さんなら、交渉しだいでは仕事を引き受けてくれるかもしれない。もちろん、巨大なデータセンターにおける各クラスタやセグメントごとに置かれたラックマウントサーバ群向けの、ルータ/ネットワークスイッチの機能および運用管理を彼女に担ってもらえれば、万全なセキュリティ対策が施された史上最強のネットワークインフラを構築できると考えるからだ。D/Aコンバートを意識することなく、またあらゆる通信仕様・手順も彼女は包括しているので、どのような規格の通信にも対応することができる。しかも、貞子さんは「ダウンしない」「死なない」から冗長化が不要で二重投資の必要がなく、彼女は自身で考え判断できる存在なので、あらかじめ高度なAI機能も備えていることになる。
 執拗に繰り返されるDoS攻撃やゼロデイ攻撃、標的型攻撃、大量の迷惑スパム、ワンクリック詐欺、悪質ハッカーなどが入りこめば、たちどころに発信者のモニターから艶やかで美しい漆黒のストレートヘアをヌ~~ッとのぞかせて、複数人を並列処理で同時に呪い殺すことができるのだ。たった一度、呪いのウィルスに感染すれば死ぬまでつづくので、犯罪者は怖くて二度とICTデバイスの側には近づきたくなくなり、ネット環境の安全・安心はこれまでになく柔軟でスムーズかつスケーラブルに実現されるだろう。ただし、恨みがすごく根深そうな貞子さんを、どのように説得してリクルートするかが大きな課題なのだが……。
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 「貞子さん、ぜひわが社のDCへお招きしたいのですが」、「…………」、「月給100万円は保証します!」、「………呪うわよ」、「ご、ごめんなさい! 月額1,000万円でいかがでしょう」、「……もうひと超え」、「案外、しっかりされてますね」、「………死ぬわよ」、「し、失礼しました。では、2,000万円でいかがでしょう」、「……ボーナスは?」、「……10ヶ月分ということで」、「………いいわ」、「では、明日からさっそく出社して……」、「いいえ、井戸の中からテレワークね」、「……い、井戸ワーク、ですか?」、「だって、COVID-19に感染したらどうしてくれるの? あたし、既往症があるから怖いのよ」。

◆写真上:上落合にある、公益財団法人「日本心霊科学協会」本部の正面。
◆写真中上上左は、大正期の撮影とみられる浅野和三郎のポートレート。上右は、同協会が毎月発行する「心霊研究」の2007年(平成19)5月号。は、浅野和三郎の著作で1936年(昭和11)に柳香書院から出版された『心霊から観たる世界の動き』()と、1938年(昭和13)に心霊科学研究会出版部から刊行された『欧米心霊行脚録』()。
◆写真中下は、浅野和三郎の心霊写真。は、散歩していると目立つ「日本心霊科学協会」の本部ビル。は、「心霊研究」の奥付に掲載された案内。
◆写真下は、霊媒師あるいは霊感の強い人物の存在が不可欠な「心霊ラジオ」ケーススタディ。(「心の道場」発行の2000年4月「スピリチュアリズム・ニューズレター」第9号より) は、人間臭さが残るアナログ時代の貞子さん。(1998年東宝『リング』より) は、ゲームのキャラクターのようになってしまったデジタル時代の貞子さん(サマラさん)。(2017年ハリウッド版『ザ・リング/リバース』より)

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